今もの忘れに困っている人へ

※「もの忘れがあるかもしれない、これからなるかもしれないと不安な人」はこちらをご覧ください。

認知症とは

認知症のイメージ

認知症は一度正常に発達した脳の知的機能が、様々な原因によって低下してしまう病気で、高齢化社会では避けて通れない問題となっています。発症すると、もの忘れが多くなったり、今いる場所や時間が分からなくなったり、理解や判断能力が著しく低下したりします。また家事や身の周りのことができない、趣味にも興味を示さなくなる、さらには怒りっぽくなるなど性格が変わってしまう場合もあり、日常生活や社会生活にも大きく支障をきたし、本人はもちろん、ご家族にとっても重大な影響を与えてしまいます。

当院では日本認知症学会の認知症専門医・指導医である院長が、患者様ごとにオーダーメイドによる診療、治療計画やサポート計画を立て、ご家族様を含めたチームとして認知症に対応していきます。

下記のような場合、一度外来にご相談ください。

  • 物の名前や人の名前がなかなか思い出せなくなった
  • しまった物の場所を忘れたり、置き忘れたりすることが多くなった
  • 物事に対して、やる気が出なくなった
  • 何かを理解することや判断することに時間がかかるようになった
  • 大事なもの(財布やカードなど)を無くすことが多くなった など
認知症のイメージ

また、ご家族から見て、以下のような様子が見られました場合もご相談ください。

  • 同じことを何度も言ったり、聞いたりする
  • 今の時間や自分がいる場所の感覚があやふやになってきた
  • 自宅の近所で道に迷うようになった
  • 熱心に取り組んでいた趣味などへの興味が薄れてきた
  • 電気の消し忘れや水道の締め忘れなどが増えた
  • 同じ料理ばかり作るようになった
  • 自分で薬の管理ができなくなった
  • 性格が変わったように思える
  • 「財布を盗まれた」と騒ぐことがしばしばある
  • テレビのドラマや映画の内容を理解できなくなった など
認知症のイメージ

認知症の種類

認知症には様々な種類がありますが、大多数を占めるのがアルツハイマー型認知症で、認知症全体の60~70%となっています。その他、脳血管型認知症が20%ほどを占め、この二つで全体の約90%となります。

認知症の病気の割合

アルツハイマー型認知症

アルツハイマー型認知症

アルツハイマー型認知症では、加齢に伴ってアミロイドベータ(Aβ)という蛋白が徐々に脳に溜まり、神経細胞が障害されることで、記憶障害などの認知機能低下が起こると考えられています。もの忘れの症状で始まることが多く、次第に神経が死滅していき、さらに脳そのものも萎縮して、その脳に司令を受けている身体機能も失われていきます。男性よりも女性に多くみられる傾向にあります。

脳血管型認知症

脳血管型認知症

主に脳卒中により脳の血管が障害され、脳細胞に酸素や栄養が届かなくなり、神経細胞が死滅することで発症するのが脳血管型認知症です。脳卒中で出現するような手足の麻痺や嚥下障害、歩行障害などの身体的症状がみられるとともに認知機能の低下が出現し、さらに意欲が低下したり、感情の起伏が大きくなったりすることも特徴です。高血圧症、糖尿病、脂質異常症などが脳血管障害を引き起こす要因となります。

レビー小体型認知症

レビー小体型認知症

大脳皮質や脳幹などの神経細胞に、レビー小体というタンパク質が集まってしまうことで脳の情報伝達がスムーズにいかなくなり、認知症が発症します。特徴としては、パーキンソン症状(手足のこわばりや小刻みに歩くなど)がみられ、実在しない人が見えるなどの幻視や、ぼーっとした状態の時があるなどの症状もみられます。

前頭側頭型認知症(ピック病)

前頭側頭型認知症(ピック病)

40〜60歳代と、比較的若い年齢で発症することが多いタイプの認知症です。脳の前頭葉と側頭葉にピック球という変性したタンパク質が現れ、脳が萎縮することで発症します。理性的な行動ができなくなったり、言葉が出にくくなったりする症状があります。認知症に多くみられる、もの忘れや妄想などの症状が少ないことから、診断が遅れる場合があります。

認知症の症状

認知症の症状イメージ

認知症では、「中核症状」と呼ばれるものとして、以下のようなものがあります。これらの症状がみられた場合は、認知症である可能性があります。

記憶障害(もの忘れが多くなる)

  • 少し前のことをすぐに忘れてしまう。
  • 同じことを何度も言ったり聞いたりする。
  • 物をどこにしまったかわからなくなったり置き忘れたりし、いつも何か探している。
  • 約束したことをよく忘れる。
  • 人や物の名前が出てこなくなった。
  • 冷蔵庫にある食材なのに、何度も同じものを買ってくる。
もの忘れの症状イメージ

見当識障害(時間や場所がわからなくなる)

  • 今日が何月何日で何曜日かわからない。
  • いつも通っている近所の道で迷う。
  • 出来事の前後関係がわからなくなった。
見当識障害

理解や判断の能力の低下

  • 役所での手続きや銀行での引き下ろしなどが難しくなった。
  • テレビを見ていて内容が理解できない。
  • 車の運転などでヒヤリとすることが多くなった。
理解や判断の能力の低下

仕事や趣味、家事や身の回りのことができなくなる

  • 仕事や家事などの段取りが悪くなり、時間がかかるようになった。
  • 料理の味付けが変になったり、同じものばかりをつくるようになった。
  • 身だしなみにかまわなくなった、洗面や入浴がうまくできなくなった。
  • 食べこぼしをよくするようになった。
  • 失禁することが多くなった。
仕事や趣味、家事や身の回りのことができなくなる

以上のような「中核症状」の他に、抑うつ状態になったり、怒りっぽくなったり、さらに幻視や妄想が現れるなどの「周辺症状(行動・心理症状)」と呼ばれる症状が見られる場合もあります。

周辺症状とは

周辺症状とは、近年ではBPSD(Behavior and Psychological Symptoms of Dementia)と呼ばれ、中核症状が元となり、行動や心理面の症状として現れます。「周辺」という言葉から大きな問題ではないというイメージを抱かれるかもしれませんが、実は認知症においては中核症状よりも深刻な状況を招くことがあります。患者様ご本人の性格や環境、心理状態によって出現するため、人それぞれ個人差があり、中核症状のようにすべての症例において出現するものではありません。

認知症の主な症状

認知症の検査

認知症・もの忘れの診断にあたっては、次の5つの診察、検査を行います。

問診

認知症の問診イメージ

いつから症状が出現したか、どのような経過をたどってきたか、どういう発言が多いか、などを通して、どのようなタイプの認知症かを推測していきます。
この問診は診断だけでなく、それ以上にどのような薬を用いていくかを決める重要なパートになります。
後述するように認知症は完治する病気ではないため、診断も重要ですが患者様ごとに症状に合った薬を見つけなければいけません。そのため初回の受診時から細かく話を聞かせていただくことになります(受診の際に長くお時間を頂戴する場合がありますのでご了承ください)。

神経診察

認知症の神経診察イメージ

レビー小体型認知症、脳血管性認知症のように認知機能以外の症状を見せる病気もあり、これらは脳神経内科医による特有の神経診察により発見、重症度の推測をすることができます。

認知機能検査

認知症の認知機能検査イメージ

記憶、注意、計算、言語などの認知機能を調べる認知機能検査を行います。
数種類の検査を行うことで患者様のもの忘れの傾向、程度を測定することができます。
数値化することができるため、数か月ごとに検査をすることで進行具合を確認することもできます。

血液検査

認知症の血液検査イメージ

病気の中にはホルモンの異常や感染症による認知機能低下を生じるものもあります。有名なものだとアルコール長期摂取に伴うものなどが該当します。
これらは病気によっては内科的な治療ののちに改善する可能性があるため最初に必ず確認しなければなりません。

画像検査

認知症の画像検査イメージ

高齢の方では知らず知らずのうちに頭をぶつけてしまい、脳内に血腫を作ってしまうケースがあります。ほかにも脳梗塞、脳の萎縮の程度を確認するために頭部画像検査を行います。
当院でCT検査を行ったのち、より詳細な検査が必要であればMRI検査を紹介させていただきます。

認知症の治療

現在の医学では、認知症は完治する病気ではありません。そのために患者様・ご家族様はこの病気と長く付き合っていく必要があります。治療は、症状の進行を遅らせたり、抑えたりする、患者様ごとの症状に応じた「対症療法」になります。
併せて、患者様とご家族様が、より安心して、毎日の生活の質を維持できるよう、他の医療機関や福祉の領域とも連携しながら、リハビリテーションなども含めた多職種によるチームでサポートをしていきます。

薬物療法について

薬物療法について

認知症への薬物療法には、記憶障害や、見当識障害、失語等の「中核症状」に対するものと、不安や幻覚、妄想、徘徊、暴力などの「周辺症状」に対するものにわけられます。
アルツハイマー型認知症の中核症状に対しては、コリンエステラーゼ阻害薬(塩酸ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン)、およびNMDA受容体拮抗薬(メマンチン)に改善効果が認められており、レビー小体型認知症の中核症状では、塩酸ドネペジルが保険適応の治療薬となっています。
場合によっては、中核症状よりも影響が深刻な周辺症状に対しては、抗精神病薬やSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)、SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)などの抗うつ薬、抗不安薬などによって、症状を抑えていきます。

非薬物療法について

非薬物療法について

薬物療法の効果には限定的な部分もあり、進行を抑制するためには、薬物療法以外の治療も並行して行っていくことが大切です。たとえば認知機能を維持していくために、食事や運動、入浴などの日常生活は、できるだけ自力で行うようにすることが重要になります。そのためにはケアやリハビリ、訓練、生活環境の整備などを行っていくことを考えます。
家庭にあっても、食器の片付けや、洗濯物をたたむ、などの比較的安全で簡単な作業を担当するなどの役割を任せることにより、生活の中で人とのつながりに積極的に関わっていける環境を作っていくことも大切です。